「春のはじめ」解説 キャラクター編(獣目)

劇画「春のはじめのころに」の解説、
キャラクター編はじまります☆


獣目・12.7.310001


まずは最重要人物であるこいつから。
獣目です。


油彩オンリーの頃から
私の作品によく出演している男です。

作品によってメイキャップも年齢も
かなり幅広く変わるキャラですが
今回の劇画では、比較的若いです。



なんといっても、
こいつを悪のヒーローとして思いっきり活躍させてみたい!というのが
制作の動機の一つでした。

この作品は一種の哲学小説というか、思考実験なのですが

テーマや小難しい理屈とは別に
こういう動機もなきゃね、
ここまでしつっこく描けませんよ(笑)


実は彼については、
以前プロメテウスの神話のことを記事にしたとき

「あ・・・そうか、これが私のヒーロー像なんだな」


と、自分でもびっくりするくらい
すごーくスッキリしちゃったのですが(爆笑)、
この作品の中での役柄、という点にしぼって書いてみようと思います。



さて。

この獣目という男、作中では盗賊ということになっています。
具体的には語られませんが、
生きるためにアウトローに身を落とした、というところでしょうか。
というより、
“生きるためには進んでアウトローになる”ということが平気で出来る。



道徳的に見たら、かなりトンでもない男です



人は殺すわ

物は盗むわ

修道院の墓地で娼婦と寝るわ


まあ、手がつけられません(笑)。



ちなみに、作品中で彼に殺された人間は
画面に現れるだけで4人います。


しかし、その一方でただのワルじゃないということを示す
エピソードもたくさんあります。


まず、彼はターゲットを選びます

ほかのケチな悪党のように、自分より弱い対象を
巧妙に見つけだしたりはしません。


獣目が狙うのは、

自分だけたくさんのもの(食糧その他)をもっていて
他人に分け与えない者、

弱い人々から力で奪ったり
彼らを暴力で押さえつけたりする者、

だいたいこの二種類だけです。



そして、多くの、力もなく貧しい、弱い人々からは決して奪わない

そういう人たちとは律義に物々交換していたり、
タダでものをあげちゃったりしています。
盗賊のくせに。


冒頭のシーンで、彼のこういう一面はすでに現れているんですよ。


あれは廃墟の町で闇市?が立っているところですが
獣目は軍用コートを手に入れるために、
売っていた親子に
自分の食糧をすべてあげてしまいます。



こういう彼の行動は、
ゴリアテ(食糧庫を独占していた強欲じいさんの家来)を殺したこと
きっかけとなり
難民たちの間に広まってゆきます。

そして、数人の有志とともに
夜盗連中をぶちのめしたりして、
いつしか「弱き人々の英雄」のような位置に
まつりあげられてゆくのです。

彼自身も、だんだんそういう立場が心地よくなっていく。



彼はただ、自分のプライドに従って生きているだけかもしれません。
しかし、その「プライド」を守るということが
この物語のような世界では
いかに大変かというのも事実でしょう。



獣目はともかくも「プライドを守ることができる」だけの
強さを持っているのです。

精神ではもちろん、肉体的な意味での力だってありますからね。



それで人々には、彼のことが
日ごろの憤懣・怨恨を晴らしてくれる
救い主のように写るわけです。


彼らはみな、貧しくて力もなく
強欲じいさんに嫌な思いをさせられても
夜盗どもにいじめられても
ただ、仲間同士であつまって悪口を言い合うくらいしかできない。


そんな彼らが、立場が逆転したと分かると
とたんにコロッと態度を変えてしまうのですが――
難民たちの性格については、また独立して記事にする予定です。



だから同時に、獣目の悲劇性というのがあるとすれば
ここにあるのです。

ややシビアな言いかたをすると、
彼を英雄にしたのは
「ありもしない救い主を求める人々」にほかならないからです。
物語には直接に出ては来ませんが、
こういう人々の心理は怖い。

ひとたびイメージが破れると
手のひらを返したように冷酷になりますものね。




(実はイエス・キリストの悲劇も似たようなところがあります。
 イエスを救世主とあがめた人々は、
 彼がローマ帝国を倒してくれることを期待しました。
 それで、『敵を愛せ』という愛の思想が理解できず
 期待はずれだったと思ってしまうのです)





さて、話を元に戻しまして。



獣目は「弱き人々の英雄」となって
旅を続けるのですが、
実は、かれが英雄でいられるのは
「秩序のない世界」だからなのです。



力だけが支配する世界にいる間、
獣目は“力を持っている者=人々をしいたげる者”に
鉄槌を下すことで
“力のない者”たちから支持を得ます。



ところが、ひとたび
「秩序のある世界」に足を踏み入れてしまうと
それまで英雄だった彼も、ただの人殺しで泥棒となってしまうのです。


それまでずっと、計画に成功していた彼が
最終話で、町に盗みに入って失敗する――というのは
彼がその領域を踏み越えたからなのです。




彼がそれまで狙ったのは、
難民たちの旅路の途中にある
孤立した家や、アウトロー(ただし彼と違ってプライドもなにもない)の連中でした。
力を誇示するかわりに、
何かの「決まり」によって守られてもいないのです。

いっぽう、町というのは
いちおう人のつくった決まり・秩序によって成り立っている世界で
力のある者も、ない者も
生きるためにある程度協力している世界です。

“力を持っている者=人々をしいたげる者”ではない。




最後に出てくる町は
「総督」と呼ばれる実力者が支配していますが
住民たちは「総督」に忠誠を誓い、
「総督」もまた住民たちに生きる糧を提供している。


そういう世界で、獣目のような人間は求められないのです。




これはたとえば、
レジスタンスの英雄が戦後の世界に適応できない、といった例と
似ているかもしれません。



しかし、最後に殺されかかった彼は
自分が助けた中でもっとも弱い者によって
命拾いのチャンスを得るのですが――


この続きはヒイナの項で。お楽しみに!
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