グリム童話のこと

私がグリム童話をはじめて読んだのは
4歳か5歳のとき。


母が買った文庫本が
全六冊のうち一冊だけ、家にありました。
読んでもらっているうちに
すっかり夢中になってしまい
残りの五冊も買ってもらっちゃいました。

夢中になるとすごい勢いで読んでしまうため
その五冊を読破するのにも
大した時間はかからなかったはずです。



結局、私が小学校の6年間で
夢中になって読んだ物語の本は
これと、澁澤龍彦の「ぺロー童話集」くらいでした。

グリム童話集は何十回読んでも
飽きなかったため
とうとうしまいには文章を暗記するところまで行きました。

今でも家に置いてあり、ときどき読んでいます。



そのグリム童話集、実は『完訳版』でした。

『完訳版』というのは「原典にあるとおりに訳した」、
すなわち「子供向けに口当たりよく変えていない、毒抜きしていない」
ということです。

だから、「白雪姫」「灰かぶり」(これは「シンデレラ」の原典)「赤ずきん」などの
本来あった残酷なシーンもそのまま書かれていたのです。

美しい物語と、恐ろしい、残酷な細部とのギャップに驚きました。


私はそういう話を読みながら
「怖いなー」とはもちろん思いましたが、
同時に「こういう場面で伝えたいことがあるに違いない」
とも思いました。

それがほとんど10歳にもなっていない頃(笑)



グリム童話集の最終巻には
おわりに解説がついていて
「グリム兄弟によって編纂された民間伝承の集大成」
ということが解説してありました。

民間伝承で長く受け継がれていた童話なら
きっと、その中に人間のいろいろな真実の姿がでているんだろう。
悪いところも、恐ろしいところも。
それで、おとぎ話の形で、それをしっかり伝えているんだろう。


10歳にもなっていない子供が
こういうことを考えていたのです。



たとえば「灰かぶり」では、主人公の姉二人が
小さな靴に足を入れるために
つまさきとかかとを切り落とす場面があります。
しかもそれを勧めるのは二人の母親です。

王子と結婚するため・自分の娘を王子と結婚させるためには
そこまでやっちゃうこともある。
これが人間の恐ろしさというものなんだなーと。


また、「赤ずきん」では
赤ずきんちゃんとおばあさんが
狼のお腹から助け出されたあと
狼のお腹に石を詰め込んで縫ってしまう場面が出てきます。
(それをやったのが2人か、それとも狩人かは忘れましたが
 物語によってバリエーションがあるみたいです)

これもまた、復讐心の怖さを感じましたね。


復讐と言えば、「白雪姫」。
ラストで、白雪姫を殺そうとした女王が
焼けた鉄の靴をはかされて
死ぬまで踊り続けることになります。

その前にも、女王が白雪姫の美しさを妬んで
殺そうとするシーンが何度も出てきます。
一般に流布している話のように、二回だけではないんです。

一般の話では

●狩人に命じる
●毒りんごを作る

なのですが、


完訳版ではその間に

●組紐で絞め殺す
●毒の櫛を作る

が入っています。


しかも、最初に狩人に命じるとき
「証拠品として肺と肝を切り取ってこい」とまで言っているのです。

結局、狩人は白雪姫を殺すことができず
小鹿か何かの肺と肝を持ちかえるのですが
女王は何と、それを料理させて食べてしまいます。


これは妬みが生んだ殺意の恐ろしさとともに
ある、呪術的な側面も思わせます。
「人間を食べると相手の能力を身につけられる」という迷信は
古くからあったようで
ここではそういう意味もあるのかな、という気がします。

これはのちに知識として知ったことなのですが
当時からなぜか直感していました。
「女王が白雪姫を食べようとしたのは、白雪姫になりたかったからだ」
と。



グリム童話には、
話の本筋としてはハッピーエンドのものが多いのですが
ただファンタジックな、美しいものではありませんでした。

「毒抜き」されたバージョンにはない、
荒削りなところ、不条理なところ、恐ろしいところ、
人間の悪やしたたかさまで、しっかりと書かれていたのです。



私のような子供がそうそういないということは
今では分かりますが(笑)、
このときにすでに気付いていたことは今でも同じ考えです。
おとぎ話の「毒」の部分にも意味がある、ということ。

幼い時に直感で気づいていたことを
今では理性で考えている、といったところでしょうか。



私が小学校高学年くらいでしたかね、
「本当は恐ろしいグリム童話」がベストセラーになりました。
かなり話題になっていたから、
覚えている方もいらっしゃることでしょう。

そこでは『完訳版』のほか
初版に出ていたバージョンや心理学的な側面からも
解釈を加えていたと記憶しています。
童話の持つ闇の部分がクローズアップされたという点で
かなり画期的だったと思いますよ。


ただ、『完訳版』をすでに読んでいた私としては
「全然知らなかった!」とびっくり仰天することもありませんでした。
むしろ、本来の姿が知られるようになって
良かったと思いました。

それもまた、深い内容を持った
失くしてしまってはいけない物語なんですから。

コメント

No title

パソコンは無事直ったのでしょうか?
それはそれとして(笑)、私も今回の話、同意です!!

僕はあまり、「これぞ子供向け」という感じで、毒や牙の抜かれすぎた物語というか、いかにも「教育のため」系なお話ばかりを子供に見せたりするのも良くない、と思ってます。
それはもうただの親の自己満足でしかないのかな、と。

おとぎ話の「毒」の部分にも意味がある、どころか、毒の方こそ大切だし、真理とも思うんですよね。
なので、最近の無毒なドラえもんとか絶対駄目だろ!と思ってたりします(笑)

ただ、グリム童話は、西洋のお話らしく残酷すぎて、こんな私でもちょっと子供にはまだあまり読ませたくは無かったり・・・

Re: No title

パソコンは復活しました(笑)

そうですよね。
子供向けの話だからといって、あまりに毒抜きしてしまっても意味がないと思います。

おとぎ話は子供に伝える教訓の面もありますから、穏やかな話にしすぎると
それこそ「ファンタジー」でしかなくなってしまうような。
「こういうことをしてはいけません」という意味で語り伝えられてきたはずですしね。

子供が誤解しないようにあとで丁寧に言い聞かせたり、
怖がったらフォローしたりすればいいのではないかな、と思います。
もちろん、こわがって聞きたくないというなら話は別ですが。

私が持っているグリム童話の解説には、こんなことが書いてありました。
「グリムの童話にはむごたらしいところがあると言って敬遠する人がいますが、
そういう人は、民間伝承の意義を理解しない人でしょう」と。

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