「風が吹くとき」のこと

久しぶりに「風が吹くとき」を拝読。

ちょっと前に書いた「検索してはいけない言葉」に
これも入っていました。

81JlZ4S-FkL__SL1500_.jpg
Amazonより引用。





レイモンド・ブリッグズの原作絵本と
映画版と両方です。


内容はほぼ同じですが
どちらかというと映画版の方が
陰惨さがつよかったように思います。

(たとえば日光浴のシーンでは、絵本版よりはるかに暗い画面になっています。
 また、飛べなくなってよたよたしている鳥は絵本には出てきません。
 ただし夫のジムが吐血するシーンは絵本のみ。)




そこで映画版を中心に書くことにしますけど、


いま改めて感じるのは
やっぱりこれはヨーロッパの映画だなぁということ。

日本やアメリカでは決して作られないタイプの映画なんですね。


ある日突然、核戦争が勃発。
イギリスの田舎町に住む老夫婦は
政府から伝えられたずさんな方法をひたすら信じ、
核爆弾が落ちてもなお救援隊を待ち続ける。

しかし誰も救援にくるものはなく、
二人は次第に放射線の影響で健康を害していく。



二人が死ぬ場面はどちらでも描かれていません。
だからこのあとどうなったかは、実はわからないままなのです。


ただラストに至るまでの展開が
あまりに静かに淡々と描かれるため
やりきれない思いだけは見る側に刻まれます。




これね、もし日本の映画だったら
「愛し合う老夫婦の涙と感動の物語」になっちゃうんですよ。

また、もしアメリカ映画だったら
ラストでブルース・ウィリスかスティーブン・セガールが出てきて
メデタシメデタシになっちまうはずです。



しかし「風が吹くとき」はそうはならない。


核戦争という巨大な暴力の前では
夫婦の愛情やスーパーヒーローの存在が
いかにむなしいか――を
言外に訴えているように思えます。



この作品の老夫婦は、
あくまで日常生活の延長として核戦争の日を迎えます。


この夫婦の日常の引きずりっぷりといったら
ときに笑ってしまうほど。

奥さんはミサイル投下の瞬間に
「あら、オーブンつけっぱなしだわ。ケーキこげちゃう」。


旦那さんは落ちた後に「新聞にかっこいい写真のってるだろ」。

もちろん、新聞なんて来ません。



外に出てみて奥さんが「ひどくきな臭いわ。肉を焼くようなにおい」
旦那さんは「焼き肉でもやってるんだろ。
原爆のあとだから早めにごちそうをしてるのかもしれない」。



普通の人が異常な環境におかれたらどうするか。
それを虫めがねで観察するように見せてくれます。
だからなおさら残酷に感じる。






もともとヨーロッパ映画には鬱展開が多いようです。
陽気なイメージのあるフランスやイタリアだって
こんな終わり方でいいのか!?というのがけっこうあります。

見たくない真実を冷徹に見据える目というのが
ヨーロッパには伝統的にあるみたいですね。



なお、この映画がいまだに
日本でも語り継がれているのは
森繁久彌と加藤治子の吹き替えのすばらしさ
大きな要因でしょう。

テーマ : 映画感想 - ジャンル : 映画

コメント

なるほど〜確かに

拝読させていただき、共感するところがあったので、書き込ませて頂きます^_^。

そう言えば、フランダースの犬はヨーロッパでの評価は負け犬の死の話だと受け止められるそうです。僕にとってかなりのカルチャーショックでした。

また、プライベートライアンという映画で、ノルマンディー上陸作戦の描写が、凄惨でした。下半身を吹き飛ばされママーと泣き叫ぶ兵士はとても印象に残ってます。

そうなんですよ、ヨーロッパは悲惨な場面を淡々と描写するようですね。安藤さんの話はしっくりときましたよ。

Re: なるほど〜確かに

島田義弘様

コメントをありがとうございます。
ヨーロッパと日本では敗者(というか弱者?)に対するまなざしがだいぶ違うようですね。

日本は「判官びいき」の言葉があるように、敗者を美化する傾向が強いようです。
対してヨーロッパでは、敗者の悲惨さをそのままつきつけてくるような印象ですね。
ちなみに「フランダースの犬」は、
児童心理学的には“虐待された子供の自殺”とも解釈できるそうです。

まぢか~

そうですね。弱者は日本では同情されて、ヒイキにされることもありますね。
まあ、同情が良いことかどうかは置いておいて。

しかし、「虐待された子供の自殺」ですか。
おお、ひどいσ(^_^;)。

まぁ、個人の(また特定の社会、民族の)価値観はいろいろあるということですかね(^^;)。勉強になりました、ありがとう!

Re: まぢか~

まあ「心理学的にはそういう読み方もできる」ということで(^_^;)
なお、これは日本の学者が書いていました。

あの少年と愛犬の死にざまは、
自然死とは言っても心理的には心中に近いそうです。

アメリカでは主人公の少年が実の父親と再会するという
とってつけたようなハッピーエンドになってしまっているそうです。
これもどうなのかな~と思いますねぇ・・・

コメントの投稿

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)